―「なんとか回っている」が崩れる瞬間―
第1回では、管理組合の高齢化は「年齢」そのものではなく、役割を担える人が減り、負担が偏り、選択肢が静かに減っていく構造だと整理しました。
第2回は、もっと現場寄りの話です。
理事会・会議の場で起きる“痛み”は、たいてい突然ではなく、次のようにじわじわ進みます。
- 会議が長くなる
- 決まらない
- 同じ話が繰り返される
- 出席できない人が置き去りになる
- 声の大きい人に引っ張られる
- 会議が「作業」ではなく「負担」になる
この回では、誰かを責めるのではなく、なぜそうなりやすいのか(構造)を言葉にしていきます。
理事経験者ほど「それ、まさに…」となるはずです。
理事会・会議がつらくなるのは、個人の問題ではなく構造の問題
高齢化が進むと「集まる」だけで難易度が上がる
会議が長引く原因は、議題の重さだけではありません。
そもそも「集まって、集中して、意思決定する」こと自体のハードルが上がります。
- 夜の会議が体力的にきつい
- 移動が負担(雨の日、寒い日、階段が多い等)
- 体調や通院、家族の事情(介護など)で予定が読みづらい
こうなると、出席率が落ちるだけでなく、出席者が固定化していきます。
固定化すると「分かっている人だけで話が進む」一方で、「分からない人はさらに参加しづらい」状態になり、また欠席が増える。
このループが、会議を少しずつ壊していきます。
“熱量の差”が会議の前提を崩していく
もう一つの地味なダメージが、熱量の差です。
- 使命感が強い人ほど、準備してしまう
- しんどい人ほど、最低限の参加になる
- 参加しても「早く終わってほしい」が先に立つ
この状態だと、会議は「協力して決める場」ではなく、
一部の人が背負い、他の人はついていく場に変化します。
ここが壊れ始めると、会議の空気はこうなります。
- 決めることより、無難に終えることが優先
- 「波風を立てない」が最適解になる
- 説明・共有に時間がかかり、余計に疲れる
つまり、壊れているのは“人”ではなく、会議の成立条件なんです。
会議時間が長くなる理由は「議題」ではなく「準備不足」
事前共有がないと、会議が説明会になる
理事会が長くなる最大の原因は、意外とシンプルです。
会議の場で初めて資料を読むから。
こうなると、会議の流れはだいたい決まります。
- その場で資料を読み始める
- 前提説明が必要になる
- 質問が出る(それ自体は健全)
- 質問が枝分かれする
- 論点が混ざって脱線する
- 結局「次回までに確認」で持ち越す
会議が「決める場」ではなく「読む場」「聞く場」になってしまうわけです。
決めるための材料が揃っていない
さらに時間を伸ばすのが、材料不足です。
例えば修繕や設備更新の話でも、比較の軸がないと決められません。
- A案とB案の比較がない
- 金額の内訳が見えない
- 何を優先すべきか(安全性・費用・将来性)が整理されていない
こうなると、会議では「感想」や「不安」だけが増えます。
- それって本当に必要?
- 高すぎない?
- もっと安くならない?
この疑問は当然です。
ただ、材料がない状態で疑問だけ増えると、会議は前に進みません。
“宿題”が増え、次回に持ち越される
材料不足は、持ち越しを生みます。
- 誰が確認するか曖昧
- いつまでにやるか曖昧
- 次回「確認しました?」から再開
- できていないと、また持ち越し
そして最悪のパターンが、次です。
- 「またこの話か…」で疲労だけが積み上がる
- 大事な議題ほど後回しになる
- 小さなことだけ決まっていく(決めた感は出る)
この状態は、理事会の“体力”を確実に削ります。
決まらない会議・同じ話のループが起きる仕組み
過去の議論が共有されず、毎回ゼロから始まる
「決まらない」の根本には、過去の議論が資産になっていない問題があります。
- 何を論点にしたか
- なぜその結論になったか
- 何が懸念で、どう判断したか
これが残っていないと、新しい参加者が増えるたびに会議はこうなります。
- 前提の説明
- 過去の経緯の説明
- 同じ疑問の再発
- 同じ議論の再演
結果、会議は“進む”のではなく“繰り返す”になります。
論点が分離されておらず、話が混ざる
決まらない会議は、議論の進め方が混線しがちです。
例えばこんな混ざり方が起きます。
- 事実確認(何が起きているか)
- 価値判断(何を優先するか)
- 感情(不安、納得できない、モヤモヤ)
- 提案(どうするか)
これらが一つの議題で同時進行すると、会議は「議論しているようで整理されていない」状態になります。
そして結局、「今日は結論まで行けないね」となります。
「反対」だけが残り、代案が出ない
特に高齢化や負担偏在が進むと、会議にはこういう空気が生まれやすいです。
- 決めた後の責任が怖い
- 万が一の批判が怖い
- 自分が矢面に立ちたくない
この心理は自然です。
でもこの状態だと、会議では反対・リスク指摘だけが増え、代案が出ない。
- 「それは危ない」→(じゃあどうする?が出ない)
- 「高い」→(比較や条件整理がない)
- 「前例がない」→(前例がないから止まる)
こうして会議は“安全に停滞”します。
紙資料・属人化が引き起こす、地味に致命的な弊害
資料の配布・回収・保管が負担になる
紙は分かりやすい反面、運営側の負担が大きいです。
- 印刷
- ホチキス留め
- 封入・投函・掲示
- 追加差し替え
- どれが最新版か管理
この「手間」が積み重なると、理事会の仕事は会議だけではなくなります。
そして手間が増えるほど、資料作成や共有が“億劫”になり、事前共有が減り、会議が長引く…という悪循環に入ります。
情報が散らばり、探せない=判断できない
紙に限らず、情報が分散すると強烈に面倒が増えます。
- 紙のファイル
- メール
- 個人のPC
- LINE
- 管理会社とのやり取り(別チャネル)
この状態でよく起きるのが、
「資料はあるはずなのに、見つからない」です。
見つからないとどうなるか。
会議では「確認しておきます」が増え、結論が持ち越されます。
つまり分散は、意思決定力を奪います。
「資料を作れる人」だけが強くなる
属人化の典型がこれです。
- テンプレが個人のPCにある
- 過去資料を知っている人だけが作れる
- まとめ役が固定化する
固定化は一見“安定”に見えますが、裏では「その人が抜けたら終わる」状態を育てます。
そして抜けた瞬間に、会議はさらに長く、さらに決まらなくなります。
出席できない人が置き去りになる構造
出席が難しい人ほど、情報にアクセスできない
高齢化が進むと「欠席者が増える」こと自体は避けづらいです。
問題は、欠席者が増えた時に、欠席者が追いつける設計になっていないこと。
欠席すると、
- 議論の背景が分からない
- どこまで決まったか分からない
- 自分の意見をどこで出せばいいか分からない
結果、次回出席しても「よく分からない」が増え、発言しづらくなります。
そしてまた欠席が増える。ここでもループが起きます。
“決まった後”に反発が出る理由
欠席者が多いほど、決定のプロセスが見えづらくなります。
すると、決定が正しいかどうか以前に、こう見えます。
- 「いつの間にか決まってた」
- 「勝手に決めた」
ここが怖いところで、実際は丁寧に議論していても、
“見えない丁寧さ”は存在しないのと同じになりやすい。
参加の形が「出席」しかない問題
参加手段が会議出席しかないと、欠席者は永遠に置き去りです。
- 事前に意見を出せる
- 事後に確認・質問できる
- 必要なら投票などで意思表示できる
こうした導線がないと、
管理組合は“出席できる人の組織”になってしまいます。
声の大きい人だけで決まるリスク(そして対立が残る)
会議は「議論」ではなく「押し合い」になりやすい
会議が疲れていると、判断の基準が変わってきます。
- 最も合理的な案
ではなく - 最も早く終わる案
- 最も揉めない案
- 最も強く主張する人が納得する案
になりやすい。
これは人間の心理です。
疲れている時ほど、争いを避けたくなる。早く終えたくなる。
少数意見が消え、後で火種になる
会議の場で言えなかった不満は、消えません。
形を変えて後から出ます。
- クレーム
- 個別の問い合わせ
- 「聞いてない」
- 「反対だったのに」
会議の場で少数意見が消えるほど、
意思決定は早くなる代わりに、後で遅くなります。
後処理の負担が増えるという意味で、結局“ツケ”が回ります。
“正しさ”より“疲れない方”で決まる
ここが、理事会が壊れていく最終段階に近い症状です。
- 正しいかどうかは分からない
- でも、もう揉めたくない
- 早く次に進みたい
この状態になると、会議は「決定の場」ではなく、
消耗を減らすための儀式になりかねません。
会議が「作業」ではなく「負担」になる瞬間
会議の前後に見えない作業が積み上がる
理事会の負担は、会議の1〜2時間だけではありません。
- 議題集め
- 事前確認
- 資料準備
- 議事録作成
- 住民からの問い合わせ対応
- 管理会社との連絡
会議が伸びれば、これらも増えます。
そして負担が増えるほど、次の準備が薄くなる。
結果、会議がもっと長くなる。
この悪循環に入ると、理事会は確実に疲弊します。
役割が曖昧だと、結局“できる人”に寄る
役割分担が曖昧だと、最終的にこうなります。
- 司会:いつもの人
- まとめ:いつもの人
- 資料作成:いつもの人
- 連絡:いつもの人
もちろん、その人が優秀だから回っている面もあります。
でも同時に、管理組合が「その人がいる前提」になっていきます。
これが属人化の加速装置です。
疲弊が進むと、意思決定の質が落ちる
疲れている組織は、意思決定が小さくなります。
- 重要な議題ほど避ける
- 面倒な調整は後回し
- 緊急性が高いものだけ処理
その場しのぎが増えるほど、将来の問題は蓄積します。
そしてある日、負債がまとめてやってきます。
ここまでの整理:壊れているのは会議ではなく「仕組み」
ここまで読んで、「耳が痛い」と感じた方がいたら、むしろ正常です。
ただ、強く伝えたいのはこれです。
会議が壊れていくのは、誰かが悪いからではありません。
多くの場合、壊れているのは会議そのものではなく、会議を支える仕組みです。
- 事前共有の仕組みが弱い
- 論点整理の型がない
- 情報が分散している
- 欠席者が追いつけない
- 役割が固定化している
この状態で「良い会議をしよう」と気合いを入れても、長続きしません。
気合いではなく設計が必要です。
次回予告(第3回):属人化と引き継ぎが招く“見えないリスク”
第2回では、日常運営の痛みに焦点を当てました。
次回は、ここで触れた属人化が進んだ先で起きる、もっと怖い話です。
- 「あの人しか知らない」が増えると何が起きるのか
- 理事交代で運営レベルがガタ落ちする瞬間
- 過去の決定理由が消える怖さ
“回している人”が抜けたとき、何が残るのか。
一緒に整理していきます。
